泣きたいませんが涙

サブURL(このURLからもアクセスできます):http://jiyugaoka.areablog.jp/qianhui

何もいわなかった

「ワカッタ」
 その日は不安で、単調で、惨めなものだった。閲兵のときに失敗までしたが、新兵兵舎に入って以来初めてだった。その日の勤務がやっと終わって部屋へもどると、ゼブはエア・コンディショナーの上に足をなげだして、ニューヨーク・タイムズのクロスワード・パズルを考えていた。かれは顔を上げて尋ねた。
「ジョニーちゃんよう……心が清らかなという意味で、六文字というと何がある?」
「きみが絶対知る必要のないことさ」
 と、おれはつぶやき、腰を下ろして装具をはずし始めた。
「なんだと、ジョン、おれが天国に行くようになることを知らないのか?」
「そうだな……一万年ほど罪の償いをしたあとでならな」
 そのとき、元気よくノックする音がしてドアを開き、古参隊員で名誉大尉のティモシー・クライスが顔を見せた。かれは咳ばらいすると、鼻にかかったケープ・コッド誂りでいった。
「おい、そこの二人、散歩に行かんか?」
 まずいときに来られたもんだと、おれは思った。ティムは部隊でもっとも融通のきかない堅物で、几帳面で信心深い男なのだ。おれが言い訳を考えていると、ゼブが答えた。
「われわれもちょうど行くところでした。すこし買物をしたかったんです」
 おれはゼブの返答に当惑しながらも、書類仕事があるからといって残ろうとすると、ゼブはさっとおれをさえぎった。
「書類がなんだ。今夜おれが手伝ってやるさ。行こう」
 それで出かけることにしたが、かれはうまくやれるんだろうかと、不思議に思った。
 おれたちは、地下トンネルを通って出ていった。おれは黙って歩きながら、もしかしたらゼブは町でティムをまいて、急いで帰るつもりなのかなと思った。やがて、道路の曲がり角に来たとき、ゼブと話し合いながら歩いていたティムは、話していたことを強調するようなそぶりで手を上げた。その手が顔の前をかすめたとき、おれは目にスプレーを軽く吹きかけられたのを感じた──そして、目が見えなくなった。
 おれが声を上げるより先に、いや、そうしようという衝動をおさえつける前に、かれはおれの上膊部をつかみ、その間、一瞬の中断もなく会話を続けた。おれの記憶によると、その曲がり角は右へ曲がるようになっていたが、かれはおれの腕を引いて左へ曲がった。しかし、どういうわけか、おれたちは壁に衝突せず、それからまもなく目が見えるようになった。おれたちはティムをまん中にして腕を組み、さっきと同じトンネルの中を歩いているような気がした。かれは何もいわず、おれたちのどちらも何もいわなかった。
 やがて、とあるドアの前にくると、かれはおれたちをとめた。クライスは、ドアを一度ノックし、耳を澄ました。
 おれには中からの応答がわからなかったが、かれはそれに答えた。
「巡礼者を二人、予定どおり連れてきた」
 ドアが開いた。かれはおれたちを中へ入れて、静かにドアをしめた。目の前には、マスクをし武装した衛兵が、熱線拳銃をおれたちに向けていた。ティムはその背後に行って、奥のドアをノックした。すぐに、最初のと同じように武装しマスクをした男がおれたちの前にやってきた。そいつは、ゼブとおれに別々に尋ねた。
「きみは、名誉にかけて心から誓うか? 友人にまどわされず、傭兵的な動機によらず、みずからの自由な意志によって、きみ自身をこの結社に捧げることを?」
 おれたちは、それぞれ答えた。
「誓います」
「目隠しをし、用意しろ」
 おれたちは、口と鼻以外すべてを覆う革のヘルメットを頭からすっぽりかぶせられ、顎の下で紐が結ばれた。それから、服と下着も全部脱げと命令された。おれは下着を脱ぎながら、鳥肌が立つのをおぼえた。急速に熱意がさめていった──男がパンツを脱がされるときほど無力感をおぼえることはない。それから、おれは注射針が腕に突きたてられる痛みを感じた。すぐに、目は覚めているが夢うつつの気分になり、いらいらはどこかに吹っとんでしまった。
 続いて何か冷たいものが、背中の左の肋骨におしつけられた。まず間違いなく振動短剣らしい。スノッティ・ファセットと同じようにおれを殺すには、握りのボタンにふれるだけでいいんだ──だが、おれはまったく恐怖を覚えなかった。
 それから、いろいろと質問がおこなわれた。おれは機械的に答えた。そうしたくても、嘘もつけず、ごまかすこともできなかったろう。そのところどころを覚えている。


goodポイント: 0ポイント

このポストをお気に入りに追加 0人がお気に入り登録中
このポストのURL http://jiyugaoka.areablog.jp/blog/1000117895/p11701823c.html
美容 | コメント( 0 ) | トラックバック( 0)
名前   削除用パス  
コメント
※入力可能文字数は1000文字です

■同じテーマの最新記事
一白遮百醜有斑毀所有
快速淡斑小妙招
  1  |  2  |  3    次へ
  
このブログトップページへ
ブログイメージ
泣きたいませんが涙
前年  2018年 皆勤賞獲得月 翌年
前の年へ 2018年 次の年へ 前の月へ 1月 次の月へ
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31
今日 合計
ビュー 3 2621
コメント 0 1
お気に入り 0 0

カテゴリー一覧

QRコード [使い方]

このブログに携帯でアクセス!

>>URLをメールで送信<<

お気に入りリスト

足あと

[吉祥寺] 明媚な笑顔
[自由が丘] 魔法獣獣
[明石・加古川・姫路] inergs
[中野・高円寺] スカイドリーム
[自由が丘] すごかったよなぁ
[横浜] 鶴見分区園
[自由が丘] はもっ​&#…
[自由が丘] 東京でよく当たる、霊視占…
[西宮] 心はずっと0798

最新のコメント

おすすめリンク


外苑東クリニック
東京 人間ドック